「私もステージの仕事がしたいんです」とか相談されることがたまにあります。
舞台仕事にかかわる人の経緯はそれぞれ。
でも、たんに華やかな世界にいたいとか、異性にモテそうとか、酒池肉林な幻想をもっているなら期待は裏切られるでしょう。地味だし、お金もたいして儲からないし。
そこは上下関係のきびしい体育会系の筋肉社会でもあります。
そして多くの場合、長く続けられないという実情もあるんです。
現場における定年はほぼ35才。高卒でも大卒でもあんまり変わらないの。
日本には大手と呼ばれる全国規模の会社は5社くらいでしょうか。
そこに所属して、有名アーティストに指名されるような大御所のオペレーターでさえ、
40過ぎてずっと社員として現場に居続けるのはむずかしい。
実際のところ舞台仕事はバリバリの肉体労働で、機械や若いバイトさんがいるとはいえ
腰にくるし、耳も悪くなるし、センスも古くなる……。
この世界は20代のうち、というか仕事を始めるとすぐに差がつきはじめます。
それは技術やセンスだけでなく「人柄」とか「度胸」とか「運」とか……。
残念ながら努力してもどうにもならない種類のものまで影響しちゃう。
「チャンス」についてはわりと公平にやってくるんですよ。
でもそれを活かせるか活かせないか、それはシビア〜に本人次第なんです。
だから、自分で音をつくる自信がないのなら、早いうちに見切りをつけたほうがいいともいえます。
もちろん、よほど非常識でもなければ「オマエはクビ」なんていきなり言われない。
大手ならホールの保守管理も請け負ってますので、そういう「小屋つき」と呼ばれる仕事に移行したり、機材の管理だとか事務方へいったり、いわゆる管理職になっていく場合が多いと思います。
そんなこんなを見極めろ、と。
……ヒラの立場の場合、現場定年は35才といわれる所以です。
チーフなら40過ぎても活躍する方は多いですが、それでもハッキリ言われるのだそうです。
45までに独立するか、管理職になるか。・・・つまり45才までにヤメレってこと……。
業界で名をなしたような人達は、たいてい独立の道を選び、それまで築いた信頼関係をもとに新しい会社を興します。人気のある出演者と専属契約などできれば理想的ですね。
講演活動をする名物キャラの方もいますが、そんな人はごく少数……。
イベントや広告の世界に行ったり、音響メーカー・設計会社・楽器屋・地方のスタジオ
カラオケマシンの営業になる人もいます。
もちろん、小さな会社なら50過ぎても現場に出る人もいますし、
チーフでなくてもいい、20代の子と混じってバイトでも現場にいたい。そんな人もいます。
そんな人もこんな人もみな「音響やさん」
どっちみち、まず終身雇用なんてない。
すごろくの先は自分で(早めに)みつけなくてはならないのです。

そろそろ機器関係の展示会があります。
いまどき新製品の情報なら、ネットでみればいいことなんですが、でも違うの。
そこには北海道から、沖縄から、全国から、遠くの土地から、普段は会えない人がはるばるやってくる。
予定をやりくりして、高い交通費を払ってわざわざやってくる。
終わって飲み会になれば、どーいう繋がり?っていわれても
別に一緒に仕事した訳でもない、ただ音響屋だというだけが共通な人達。
メーカーの人も現場の人も小屋管理の人もカラオケ屋さんもいます。
でもそんな職種の垣根なく、楽しそうにいくらでも機械のこと現場のこと音のことで話が尽きない。
たぶん、プライベートにはアクが強くて嫌〜なタイプであろう人達であろうとも
遠くから自腹でやってくるオジサン達をみていて、けっこう楽しい。
名刺の肩書きや会社名も変わっている人もいる。もう消息もとだえてしまった人もいる。
それでも、人生のすごろくに「あがり」はない。
どこへいこうと、何をしようと、どんな肩書きになろうとも・・・。