担当していた劇団の女優さんからこんな依頼がありました。
「ウチのステレオ、うまく鳴らないのよ、今度見てくれる?」
偶然、家が近かったこともあって、お宅までおじゃましたりして、少し親しくなりました。
スピーカーの設定をみて、ビデオとテレビとDVDも見れるようにして・・・。
最近の機械はイロイロと面倒ですもんね。
新たに必要なケーブルなんかの材料費は出してもらうとしても、こういう場合お金はもらいません。
そのかわり豪華!リアルカニチャーハンとか食べたりね。
その後も買い物に一緒に行ったりするうち、いつしか、ちょっと年の離れたお友達のようになっていました。
別に私と特に気があったわけでもないと思うのですが、給料を払う主従関係がない気楽さなのか、
職業も年齢も全然違うのがかえってよかったのかもしれません。
ある年の秋、京都の桂離宮の見学申し込みをしたのに同行者が突然行けなくなったとき、
ピンチヒッターで「行かない?」っていうことになったりして、時間の都合をつけやすい身の上はこういうとき便利ですね。
その女優さん(Zさんとします)
関西に仕事があるときはもっぱらホテルだったのですが、だんだん荷物も増えてきたし
そちらにも家をかまえることになったんです。
「むこうの家の装置もみてね」なんていわれ、家が完成したら伺います、なんて会話はありました。
しかし思いのほか早くその機会がやってきました。
若い付き人さんからの電話。
「急に来週から泊まるってZ先生が言うんです、どうしましょう!」
なんでも占いでそういう「吉の日取り」をみてもらったら、△月中が良いっていわれたんですって。
そりゃー大変だ!
やはり縁起をかつぎたい職業ですもの、いいとなったらやるしかない!
さいわい工事はもう終わっているから、もろもろの準備を手伝って欲しいということでした。
私の中間的立場があると通しやすい事情もあるらしいし
ちょうどヒマだった私は急遽、関西にでかけることになりました。
神戸に近い山の手の高級住宅地にその家はあり、重厚な玄関を開けて………ボーゼン。
そこには家具と食器や道具類の山が天井まで積み上がっていました。
あの、これ……どうしましょう。
関西での家事担当として採用されたらしい、学校出たてみたいな女性がオロオロしています。
どうしましょうって、Z先生が泊まりにくるまで3日しかないのよ。
(一番良いとされる日を忠実に狙うとそうなるらしいの)
ぜんぶ開封じゃ!
それからひたすら梱包をとく作業。
一軒家ぶんの食器や台所用品、いったい何人お客を呼ぶんだってくらいの膨大なるセットの数々。
(劇団関係者など、来訪者は多い)家事指導にも厳しい先生ですし、戸棚にいれる前にひととおり洗うことも必須、しまう場所も使い勝手を考えないとカミナリが落ちます。
ほとんど徹夜で東京から送られた荷物の山をなんとか片付けて、ほっとしたのもつかのま、あるところでギョッとしました。トイレがからっぽだよ!
スリッパやタオルとかティッシュケースとか、そんなこまごまとしたものが抜けている。
さしあたり適当に用意してあったものは(ちょっと安っぽすぎて)………たぶん却下でしょう。
でも先生好みのブランド品を買いに行く現金なんて誰も持ってないし、さて、困ったぞ。
・・・で、どうしたかというと、Zさんが東京で懇意にしているデパートに問い合わせ、
そこの関西店で「ツケ買い」をすることになりました。
いわゆる「外商扱い」ってヤツです。
そこまで話をつけるまでに数時間。
実際にデパートの売り場に到着したときには、閉店まで1時間をきっていました。
翌日にはZさん一行が関西にきてしまいますから、「お届け」を待つという時間もなかったんです。
さぁリキいれてお買いものだぁ〜!
デパートの外商担当者を従えて、売り場を超早足でめぐります。
このスリッパを2ダース、あのタオルを色違いでバス・フェイス・ハンドと12セットづつね。
バスルーム用品も本人用・来客用・身内用と数セット。
そういえばタオルかけもなかった。ハンドソープもないぞ。ゴミ箱も各部屋分、中の袋も買わなくちゃ。3カ所あるトイレ用品もそれぞれ。来客用シーツ類も用意してといわれたんだっけ。
さらに食品売り場にも回って、お茶を飲む場面に必要なものもあれこれお買いあげ。
(意外といろいろ必要なもんです)
もう商品を手にとってしげしげ見ている時間なんてないんです。
「ハイ、これを」と指さして、数を指定する私。
ピッタリ付き添って伝票に書き込む人1名。
それを大慌てでとりだしまとめていく人2名。
いや〜大変なんだけど、面白かった!!
こんな大名気分のお買い物なんて、私の人生にはそうそうないで〜す。
終業時間もだいぶすぎ(そう、私達のために)、やっと終わって「家まで車でお送りします。」っていわれて駐車場に行ってみると、そこにはデパートのワゴン車満載の品物が待っていました。
それも全部・・・・丁寧にしっかり包装されて・・・・。
明日使うんだ! そして荷ほどきの夜がまた繰り返されたのであった・・・。