数ヶ月のあいだ、スペインの人達と舞台仕事をしていたことがあります。
それまで私が外国人のからむ仕事をポツポツとやっていたせいでしょうか、
日本語通じなくても、あの人ならなんとかなるんじゃない?って思われたのかもしれません。
しかし。。。当時の私はスペイン語なんて全くわからんよ〜という状態でありました。
とはいえ、その仕事は音響はあまりメインでない種類のステージということもあり、
さらに向こうの国から、音響スタッフが2人も付いてくるっていうし
ま、それならなんとかなるでしょう〜なんてタカをくくっていたんです。
たしか向こうとのやりとりも英語でやっていたような記憶。。
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それが。。。
いざ当人達が来日してみると、これが全然なんともならないという現実!
えーー、いまどきはもっと柔軟なスペイン人の方が大多数だと思いますけれど
なにしろその団体、いわゆる「国立ナントカ」みたいなものでして。。。
つまり、たとえば日本から歌舞伎団体が外国公演をして、音響関係で同行する裏方がいたとして
その彼等が現地語ぺらぺらか・・というとまぁそうじゃないだろうな、って想像つきますよね。
そんなかんじ。
カタコト英語くらいなら話すよねー?と思っていたんですが、なんとそれも全然ダメ!
ハローもなし!
「ステージ」も「up/down」も「left/right」も通じない!!
マジですか〜〜〜!!?(でも本当なんです、真剣に驚きました)
なんでも「我らはかつて七つの海を制した英雄の末裔。英語なんて(野蛮な言語は)しゃべれるかい!」みたいな心理があるんだそうで(当時の通訳さん談)
とにかく日本語はもちろん、英語も全くワカリマセ〜ン、ってな人々であったのでした。
後できくと自国の劇場にはサンクラの卓が入ってるっていうんだけどなー(soundcraftっていうプロ用機器メーカー)
あっちじゃ電気製品もすべてスペイン語仕様になってるんでしょうかねー、、ブツブツ
ま、とにかく。裏方ふくめて総勢3〜40人にもなる団体なんですが、そこに通訳さんが1人。
1人!そう1人しかいない!!もう大人気だ!(違う
それも当然メインキャストに重点的に貼り付いてますから、音響関係には最小の時間しか割いてはもらえません。
もっとややこしい打ち合わせが必要な、大道具や照明さんのご苦労がしのばれるかぎり。
といって通訳の順番待ちをしてたら時間が足りません。
これは、こっちが歩み寄るしかない。。
ということで急遽、即席スペイン語学習(独学緊急モード)となりました。
難しい会話なんていいんです、とにかく舞台関係に必要な単語だけでもと必死。
移動のときも辞書片手。
たぶん人生で初めて、あんなに真剣に語学を勉強したような気がします。
そして、日本人スタッフは仕事上がりに「明日、間にあわな〜い!」と叫んで憂さをはらすのでありました。( 西語Hasta Mananaは、英語のSee you tomorrowくらいの意味)
ツアーとしてはなかなか過酷で、北海道から夜行列車に乗って、明け方に途中の仙台で降りて本番。
終わるとそのままバスで東京へ移動(車中泊)、みたいなゼロ泊4日みたいな強行日程。
(それを数週間くりかえし)
一行は日本スタッフとは別行動でバス移動でしたけど、貧乏ツアーなのは同じです。
食費は1日1000円だとかで、朝はホテル、夜は招待もたまにあるけど、基本は楽屋のお弁当。
昼はみんなしてラーメンとか食堂のカツ丼を食べるのでありました。
で、彼等はスペイン的スペイン人です。
食事をしたら「はい、次は?」となります。
「そりゃ、食後には甘いものだろう?当然」だそうで。
けっこういい年の(お子さんもいるような)おじさん達とゾロゾロドーナツ屋に連れ立ち
それぞれ1個づつかじりながらとか、アイスクリーム舐めながらぶらぶら。
そして「当然、少し休憩だよな?」
そうでした、かの国ではシエスタ(午後の休憩)をとりますね・・・
最近はこのシエスタの習慣も変わりつつあるそうですが
考えてみれば舞台仕事はあがりが遅いものですし、拘束時間も長い
待ち時間があるなら、ゴロゴロもいいものではないかと・・・。
私など出張にいくと、空き時間には別の仕事の用をしたり、こまこまと観光してしまいますが
彼等はきっちり「休む」姿勢。ラテンだな〜と感心したりもしました。
でも考えてみれば、それが本番時に集中できて良いのかも、なんて今は思ったりします。
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各地をまわってツアーも後半。
むこうとこちらの役割分担も、なんとなく定着してきたころのこと。
毎回、スピーカーのチェックもかねて、会場内に軽く音楽をながすのですが
そのとき、そのホールの音響室にはいくつかCDやカセットテープが置いてあって
なかにフレディマーキュリーのソロアルバムがありました。
たしかスペインの女性歌手とデュエットしてたんじゃなかったっけな?
それくらいの意識で、なんの気なしにそれを流すことに。
・・・・!
ステージ上で悲鳴のような声があがり、ドタドタと走る足音。
なに?どうした?なにが起こった?
びっくりして舞台のほうをみると、ステージ脇に置いたスピーカーに数名の人がとりついている!
なに?
「もっと大きくして!」「もう1回かけて!」「もう1度!」
私はバルセロナオリンピックで歌った姿くらいしか知らないオペラ歌手、Montserrat Caballe。
でも本国の人には涙をながさんばかりに懐かしい、心に触れる歌声なのですね。
「Ensueno」という曲では、ほんとに泣いてる人がいました。。。
いくら団体旅行とはいえ、2ヶ月近く右も左も通じない土地での日々。
遠い異国で聞く彼女の歌声に、故郷のなつかしさが迫ってくるものなのかもしれません。
あまりの反響にそのホールの方も「誰かが忘れていって、長いことずっと置きっぱなしだし」って
そのテープを譲ってくださることになりました。
(返して欲しい人がでたら連絡してということで)
そのテープは今もそのまま、私の手元にあります。
カセットテープなんて、もう聞く機械からしてない我が家であります。。